情報システム学会 メールマガジン 2006.12.25 No.01-04 [4]

第2回研究発表大会探訪記

高木、芳賀、松永

 12月2日(土)に専修大学神田校舎で「人間中心の情報システムを考える」を大会テーマに,第2回研究発表大会が開催されました。

と,昨年より増加し,盛況のうちに終了いたしました。
 以下に、大会の模様を紹介します。

 午前に行われた専修大学経営学部教授の櫻井通晴先生による大会開催校記念講演「人間中心のCIO のベストプラクティス」,午後に行われた情報システム学会北城恪太郎会長による「これからの企業におけるCSRのあり方」と,社会システム・デザイナー横山禎徳先生による特別講演「社会システム・デザインとは何か−先端課題解決へのアプローチ(仮題)」に出席者の多くの方が参加されました。特別講演の横山先生は,悪循環に陥った社会全体の仕組みを考え直す必要があるという社会システム・デザインという概念を披露されました。情報システムを考える場合 細部の議論に多くの時間を割くことになりがちですが,このような根本的な視点による考察の重要性を認識させられた講演でした。今回の講演のためにフランスから予定を早めて帰国し,講演料でご自身の著書を参加者に配布されるなどの配慮を頂きました。

(高木義和)

 今回の大会テーマ「人間中心の情報システムを考える」をセッション名としたF会場では5件の発表がありました。中嶋聞多氏からは,生命・社会・機械の各情報を発展的にとらえる西垣理論を基盤にした,情報システム学の新しい枠組みが述べられました。今や情報は,小学校から必須の概念です。それにもかかわらず,わが国では基本的な意味があいまいなままになっています。「情報システムと教育」の論議にもつなぐべき重要な提言が行なわれました。
 松平和也氏の主張は,CIOは主任情報参謀であるべきだ,という啓発的な内容でした。当然,情報収集のみでなく対外的な情報発信も課題として,メルマガ創刊号に柴田亮介氏が書かれた,情報システムとしてブランドを確立する役割も担うことになります。松平氏からは,情報システム部が電算部として売却の対象にもなったという問題が提起されました。つまり,人間のかかわる業務プロセスが情報システムのプロセスとして十分認識されず,その中で特に機械情報(処理するプロセス)が疎外されていたのです。
 この点に着目されたのが甲斐莊正晃氏の発表です。ブランディング活動を社内に向けて実施することにより,従業員の意識を改革,ERPなどの機械情報システムも積極的に取り入れて高水準の業務プロセス確立をめざすものです。田沼浩氏の情報の評価と価値の議論も,このようなプロセスの中に位置づけると,さらに新たな展開が得られると思われます。
 冨永章氏の発表は,ソフトウェアのまちがいの予防,すなわち社会情報から機械情報への翻訳精度向上を課題としたものでした。多様な活動実績を総括すると,第1に効果があったのは,失敗の原因分析からリスク管理をすることでしたが,第2に場合分けの網羅性が挙げられたのは,東証問題が裁判にはいったタイミングだけに印象に残りました。
 5件の発表のいずれも時間の経過を忘れるほど議論が白熱,今後の情報システム学の研究に大きな展望を開くセッションでした。

(芳賀正憲)

 G会場の「情報システムと教育」セッションでは,初等・中等教育(3件),高等教育(2件),企業(2件)それぞれから,情報および情報システムに関わる教育方法やその問題点について報告がなされ,熱い議論が行われました。
 島田由美子氏(多摩大学)の発表では,実際に行われている各小中学校での教育内容にばらつきがあり,児童の発達段階にあわせた教育ができるよう,適切な教科書が作られるべきであるという提言がなされました。佐々木桐子氏(新潟国際情報大学)および竹村憲郎氏(専修大学)の2件の発表では,それぞれ新潟県,東京都近郊の高等学校へ,普通教科「情報」に関するアンケート調査を行い,教育能力が不十分な兼担教員が多い実態,他教科への読み替えなどの不足する学習時間など,期待とは違う様々な問題を指摘しました。
 掛下哲郎氏(佐賀大学)からは,産業界が期待する知識・スキルと,大学が育成する能力との関連を明らかにしていく必要があると提言がなされ,松永賢次氏(専修大学)からは大学における実際の産学連携演習の事例とその利点及び改善すべき点が報告されました。関弘充氏(富士通)からは,人間力を重視したプロセス改善活動と,そのための管理者教育の実践報告がなされ、杉浦充氏,青木美代子氏(日立インフォメーションアカデミー)からは,コミュニケーションスキルを向上させるためのカリキュラムとフォローアップ活動について実践報告がなされました。
 初等・中等教育,高等教育,企業と報告されたフィールドは異なるものの,各発表者から提示された問題は相互に依存していることが議論から明らかになりました。その解決のためには,異なるフィールドの関係者が協力していく必要があると,参加者が意識することができた有意義なセッションでした。

(松永賢次)

 今回はじめての試みとして,「産業界からの論文発表を促進するためのワークショップ」が研究発表大会と同時開催されました。午前の部は論文執筆要領に関する一般的な知識と留意点についての解説,午後は事例研究論文原稿を各自が査読することにより,論文発表のために必要知見を習得するという実践的な内容でした。長時間のワークショップでしたが,13名の参加者による熱心な意見交換や質疑が行われました。論文発表は非常に重要な学会活動ですが,このような活動を通して,本学会の特徴である事例研究論文が1篇でも多く出てくることを期待したいと思います。 全てのセッションを紹介できませんでしたが,他のセッションでも同様に活発な発表と質疑が行われました。今年参加頂けなかった方とは来年度の大会でお会いできることを楽しみにしております。

(高木義和)

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 → http://www.issj.net/conf/issj2006/index.html